読書:もいちどあなたにあいたいな

タイトルがいいですね。それだけで衝動買いしてしまいましたよ。

新井素子さんの7年ぶりの長編、ということで今話題のようです。
漫画以外のフィクションを読んだのはけっこう久しぶりだったりして。

実の母のように慕っている叔母「やまとばちゃん」がなんだか最近変だと、主人公の女の子は同級生のオタク男に相談するが。。

記憶や多重人格をテーマにした、ちょっと不思議なお話です。

ソフトウェアエンジニアである僕は、なんでもソフトウェアとハードウェアになぞらえて考えるくせがついてしまっているのだが、そんな調子で記憶ってなんだろうとか考えてみると、こうなる。コンピューターの記憶であれば、それはハードディスクとかの記憶装置に過去に残した痕跡だ。でもそれは今となってはハードディスクの、(書き換え可能な)現在の状態でしかない。人間の記憶も原理的には同じで、過去の記憶も、結局は脳細胞の集まりの現在の状態でしかない。現在の状態でしかない、ということはそれは原理的には書き換え可能なものだ。記憶は現在の脳の状態に過ぎないのだから、原理的には、そんな過去が存在しなくても、偽の、本物と区別できない記憶をいくらでも作り出すことができるはず。

そんなわけで「書き換えられた記憶」とかってSFでよくある設定だけど、説得力を感じるというか、共鳴できる、好きな設定の一つです。
過去って、僕らが普通に生きている中で感じているよりも、ずいぶんと不安で手の届かないものだという気づきと、それによるせつなさが表現されていて、いいです。

P.S. よく考えたらこの間「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の本を読んだからフィクション久しぶりってことはなかったか。あれはハウツー的要素やラノベ的要素があって、なんかふつうのフィクションとしての記憶に登録されなかったのかな。