プラネテス - えらいリアルなSF漫画

これはすごいよ。
近未来、人工衛星軌道上のスペースデブリ宇宙ゴミ)をひろうお仕事の人たちを描いたSF漫画なんだけど、とにかくリアリティが圧倒的。

作者は歴史や科学を相当調べ込んだ上で描いてるに違いない。実際、現在執筆中のヴィンランド・サガ(歴史物。バイキングの話。)なんて遅々として進まないらしいけど、こんなこった作り込み方をしていたらいくら時間があっても足りないだろう。

今現在、この現実の世界では、40年前に人類が月に降り立った割には、そこから先、宇宙への進出は大して進んでいない。その最大の原因は、宇宙に行くことの経済的なモチベーションがないから。つまり頑張って宇宙に行っても大金持ちにはなれないからってことだ。大航海時代を可能にした原動力は、インドに行って胡椒を船に満載して帰ってくれば大金持ちになって貴族に列せられたりすることができる、というモチベーション。
宇宙には今のところ胡椒にあたるものが無いわけだ。

プラネテスの世界では、近未来、人類は月を拠点に火星、木星へとフロンティアを広げているんだけど、多くの人がそこにかかわろうとする経済的な理由がちゃんと設定してあったりする。この時代、核融合技術がヘリウム3を燃料とする方向に進んでいて、このヘリウム3は月や火星の表面や、木星のガスから採取される。ヘリウム3が大航海時代の胡椒の役割を果たして、人類の宇宙進出が進む、というシナリオなわけ。Wikipedia調べてみたんだけど、ヘリウム3ベースの核融合って、核融合が実現されるとしたら可能性としてあり得る方法の一つで、あながち荒唐無稽な話でもないんだね。

宇宙のゴミ拾いという仕事だって、もし本当に人類が宇宙に進出すれば、きっと現れるに違いない。人類の進出するところどこでもゴミは出るけれど、衛星軌道を回る宇宙のゴミは秒速数キロで飛んでるわけで弾丸と同じで超危険。誰かが何とかしないと人間の宇宙活動の根本が揺らぐ。でもこれは相当な3K仕事になるはずだ。作中では、そのへんも見事に描かれている。宇宙飛行士たちの生き方考え方は死の危険と隣り合わせに生きる昔の船乗りの文化に重ねられている。科学技術が進んで時代が変わっても人間はあまり変わらず、同じような局面では同じような文化が醸成されるものだろう。

登場人物のひとり、人類初の木星行きの宇宙船を開発している科学者がいるんだけれど、こいつが狂ったやつで人類の宇宙進出のためには人の命などなんとも思っていない。今に暮らす普通の人から見たら、漫画の中だけの現実離れしたキャラクターにも見えるかも知れないが、人類のフロンティアを拓く人間としては逆にこっちのほうがリアルに感じる。バスコ・ダ・ガマコロンブス織田信長なんて実際こんな感じだったんだろう。彼らの栄光は名も無き人たちの死屍累々の上に築かれたものなのだ。
人類のフロンティアにいる人間の狂気。僕自身はそういう狂気を持った人間に会ったことはないので想像だけど、ひょっとするとそんな狂気もリアルに描かれているのかも知れない。

まあとにかくおすすめっす。